ゾンビ漫画の金字塔が『アイアムアヒーロー』。コミックス累計発行部数は830万部を超える人気漫画でした。作者は花沢健吾。2009年から2017年までビッグコミックスピリッツ(小学館)で連載され、2016年には大泉洋で実写映画化もされました。
特に『アイアムアヒーロー』の1巻の展開は衝撃的で話題を呼びました。かなり練られた演出もあって、誰もが度肝を抜かれたはず。そのため『アイアムアヒーロー』の最終話はどのように完結するのか誰もが興味しんしんでした。
ただ最終回のネット上の評判はよろしくなかったのが現状です。『アイアムアヒーロー』のコミックス最終22巻のアマゾンレビューは発売当初から大荒れでした。しかしながら、2021年12月に「最終265話」が追加された【完全版】が新たに発売されていました。
そこで今回ドル漫では『アイアムアヒーロー』の最終回のネタバレ感想を改めて再びレビューし直したいと思います。結局、主人公の鈴木英雄はどのような結末を迎えたのか?アマゾンレビューを読むと意外と好評だったんですが、その批評は正しいのか?
ちなみに改めてレビューし直した結果、文字数は2倍以上増えました。
アイアムアヒーローの内容あらすじまとめ
まずは『アイアムアヒーロー』の最終回までの内容あらすじを解説します。
主人公は鈴木英雄(すずき・ひでお)。しがない漫画家。
一度プロデューしたものの、その後は鳴かず飛ばず。鼻糞林檎というペンネームからも、漫画を作るセンスはあまりなかった。35歳の現在は松尾というプロ漫画家の作画アシスタントとして働くが、先輩アシにいびられるなど、うだつの上がらない日々を送る。
この鈴木英雄にも唯一の癒やしがあった。
それが恋人の黒川徹子(てっこ)。しかし性格は穏やかだったものの、同じくプロ漫画家として活動する彼女の批評眼はどこか辛辣だった。元カレの中田コロリという人気漫画家を引き合いに出しては、鈴木英雄を暗に精神的に追い詰めた。
そのため黒川徹子の何気ないアドバイスも的確ではあったが、だからこそ鈴木英雄にとっては屈辱と感じることも多かった。ただ逆に中田コロリは鈴木英雄の才能を買っており、黒川徹子以上に優しく接してくれることが鈴木英雄のプライドを更に傷付けた。
○しがない漫画家が襲い来るゾンビから逃れる物語
こんな何気ない日々が続いていたが、鈴木英雄の周囲では「凶悪なウイルス」が着々と忍び寄っていた。アシスタントに入っていた松尾は出血し、テレビ番組では噛みつき事件に関するニュースが盛んに流れるなど、不穏な空気は鈴木英雄の恋人にも迫っていた。
体調不良のメールが送られてきた鈴木英雄は恋人のもとに向かうと、部屋の前には何故かウジ虫がうごめいていた。恐る恐る郵便受けから部屋を覗くとそこには…という展開から、世界が未曾有のゾンビパニックに見舞われていく。
果たして英雄は生き残れるのか?果たして恋人の姿は一体どうなっていたのか?
敢えて詳細なネタバレは避けますが、とりあえず【コミックス1巻】だけは実際に是非読んでもらいたいです。
アイアムアヒーロー最終回・最終話までの流れ
続いては最終回・最終話までの一連の流れを更にざっくり解説していこうと思います。
その後、富士の樹海にまで逃亡した主人公・鈴木英雄はそこで偶然、女子高生の早狩比呂美(はやかり・ひろみ)に救出されて共に旅を始める。しかし比呂美は旅の途中でゾンビの新生児に噛まれて感染し、通称ZQNと化してしまう。
このZQNは不死身の身体能力を持つ反面、代わりに理性を完全に失ってしまう。まさにゾンビ。
しかし、比呂美は脅威の免疫力を持っており、何故か半感染状態に留まった。そのため人間を攻撃することはなく、ZQNに対抗できる兵器として度々活躍する。そして途中で出会った看護師の小田つぐみの助けを借りて、比呂美の理性は無事戻る。
ただ旅の途中で看護師の小田つぐみの妊娠が発覚。主人公・鈴木英雄との子供ではないものの、迷惑はかけられないと二人の元を去ろうとする。しかし、その際にZQNに噛まれて感染する。自らの判断でゴミ収集車のプレス機に入り、最終的に比呂美がスイッチを押す。
そして、ワクチン生成のために鈴木英雄と比呂美が向かう先は「東京」だった。
○アイアムアヒーローの最終決戦の地は東京・池袋
一方、「クルス(来栖)」と名乗る狂人に、生き残った人々は希望を見出していた。来栖一派と名乗る勢力は埼玉県久喜市に集まって、ZQNに対抗。その前線で戦っていた男こそがクルス。圧倒的な身体能力を前に、ZQNもことごとく倒れていった。
クルスは言うならばZQNの上位互換?
しかし後に引きこもりの江崎崇に敗北し、「新たなクルス」が誕生する。そして向かった先は、やはり東京。この東京には漫画家・中田コロリの姿もあった。彼のカリスマ性に引かれて集まった仲間と共に、池袋のサンライズ60という高層ビルに籠城していた。
つまり東京・池袋がまさに『アイアムアヒーロー』の最終決戦の場と化す。
ただZQNが大量に襲ってくる中、来栖一派たちはサンライズ60の屋上に追い詰められていく。主人公・鈴木英雄も辿り着く前に大量のZQNに発見されてしまい、別のビルの屋上にあるクレーンまで追い込まれてしまう。しかも巨大なZQNの塊も迫っていた。
巨大ZQNは高層ビルのサンライズ60に「巨大な巣」を張ろうと画策していた。
ラスボスの正体は早狩比呂美だった?
結論から言うと、ラスボスの正体はざっくり言うと早狩比呂美でした。小田つぐみがZQNに噛まれた理由も、比呂美が無意識的に操ってZQNを操って噛ませたから。この事実に気付いた比呂美は謎の巨大なZQNの塊の中に自ら吸収されて、鈴木英雄の元を去ってしまう。
鈴木英雄も元カノに噛まれていたものの、心を閉ざしすぎた人間は感染力が弱かったことが、早狩比呂美と元カノ・黒川徹子のZQN内での会話から判明します。
またZQNは最終的に【全ての個】を一つに集約させることが目的っぽいことが漠然とは判明します。だから他人を拒絶する鈴木英雄はZQNの内輪に入ることが結果的にできなかった。どこまで行っても鈴木英雄は孤独な存在だった。
しかしZQNと一体化してしまったことで、比呂美の考えは【他の個】に全て筒抜け状態になってしまう。比呂美は小田つぐみに殺意がなかったと自己弁護するものの、「名もなき集積脳」を名乗る他の個からは明確な殺意があったことがバレバレだと詰問される。
○あたしを守るって言ってたんじゃねーの?
事実、自分自身の過去を振り返っても、「恐怖する英雄の表情」しか思い浮かばなかった。ZQN内で小田つぐみの意識と口論に発展するものの、【他の個】からは「女の嫉妬って怖いし哀れ」「三十路のおばちゃんから小汚いおっさんを寝とってもな」と嘲笑される始末。
思わず「っさい!外野は黙ってろ!英雄くん、騙されないで…英雄くん、助けて」と発狂する比呂美だったが、遠く離れた屋上のクレーンから比呂美を狙っていたのが鈴木英雄だった。無数にあるZQNの目玉が撃ち抜かれると、比呂美の左目も潰れてしまう。
ほぼ無敵のZQNにとって物理的な損壊はほとんどなかったが、早狩比呂美の「精神的なダメージ」は計り知れなかった。「あたしを撃ったの?あたしを守るって言ってたんじゃねーの?」と可愛らしかった比呂美の見た目は醜悪に変形してしまう。
先程はラスボスと表現しましたが若干違うものの、あくまでZQNの一人に過ぎなかった早狩比呂美の「負の感情」がZQN全体を支配して暴走し始める。
ビル屋上ではクルスと中田コロリたちが戦うも…
一方、池袋サンライズ60の屋上ではクルスと中田コロリたちが戦っていた。
屋上には唯一の脱出手段のヘリコプターがあった。これを巡って、クルス、中田コロリ、浅田たちが戦いを繰り広げる。しかし遠くのビル屋上のクレーンにいる鈴木英雄からは「生き残った人間同士がヘリコプターを巡って争いを繰り広げている光景」にしか見えなかった。
完全に追い詰められた鈴木英雄は「誰かを最後に救ってヒーローになりたい」と考える。そこで弱者側を救おうと決意する。
ただクルスの見た目は「パンツ一丁のオッサン」だったこともあって、鈴木英雄は女を隣で守る【ドクロのお面をかぶった男】に標的を向ける。どうせ女とチャラチャラした奴は夏になると湘南とかの海でナンパできるタイプはに違いないと嫉妬剥き出し。
しかし、このドクロのお面をかぶった男こそが同じ漫画家の中田コロリだった。それを知らずに鈴木英雄は中田コロリの腹部を撃ち抜く。しかしながら運否天賦を持つ中田コロリ。鈴木英雄と違って、まさに成功者の運命を背負った男は違った。
ただ中田コロリは愛読する鈴木英雄の単行本を常に隠し持っていたため、そこに銃弾が被弾して致命傷を避けることができた。そして敵意がないことを証明するため、中田コロリはその銃弾が被弾した単行本を上に掲げて左右に振って示す。
でも鈴木英雄は自分の単行本の表紙にスコープで気付くものの、最後まで中田コロリの正体を知ることはなかった。ここらへんも「持ってない感」があります。
○クルスは「人類を生かす選択」を取る
その間に、苫米地が到着してヘリコプターの操縦席に入り、エンジンを掛けるとヘリコプターの羽が勢いよく回りだす。瀬戸が仲間全員で脱出しようと試みるものの、中田コロリなどは負傷し、おばちゃんがZQNに食べられてしまった。
他にも、浅田はZQN化したカキタレの女に火炎放射でキレイに焼かれます。ちなみに、浅田のモデルは親友とされる浅野いにお。最近二度目の離婚をされたとのこと。おめでとうございます。
一方、ZQNの中では「クルス本体」を前にその他のクルスたちが集まっていた。あれほど凶暴に暴れ回っていたクルスも、実際には数十年も寝たきり状態だった。その他のクルスも「人生に絶望した落ちこぼれ」の集まりだった。
だからこそZQN化は落ちこぼれたちの「希望の光」でもあった。
ただ既に大半の人間がZQN化してしまった今、次世代の覇者として君臨するものの、もはや誰も見ていない「裸の王様」状態。思わず苦笑いを浮かべるクルスだったが、もうひとりの女クルスが「見られたいなら生かそう。今生きてる人を助けようよ」と決断する。
ZQNに食べられたおばちゃんは吐き出されると、何故か若返った状態で戻ってくる。既にヘリコプターに乗り込んでいた中田コロリたちは、おばちゃんを引き上げてヘリコプターが飛び立つ。鈴木英雄も巨大なZQNに呑み込まれるも、早狩比呂美は「生きて英雄くん」と事なきを得る。
ZQNの侵攻は終焉するも、鈴木英雄だけは一人孤独で?
その後、ZQNたちの侵攻は完全にストップした状態が一年以上続いていた。
町中には巨大なZQNの残骸が不気味に残ったままだった。地下鉄駅の奥深くにもZQNの残骸は根を張るなど、まるで植物。ただ残骸そのものはカチコチに硬化しており、そこからは生命力の息吹を感じることはできなかった。
また都心のビル群はすっかり荒廃し、あちらこちらで草木が生い茂るなどZQNの侵攻から長い年月が経過したことを伺わせた。ウイルスの影響を受けなかった一部の野生動物が闊歩する中、池袋西口公園を拠点に主人公の鈴木英雄はサバイバル生活を送っていた。
一方、中田コロリたちはどうなったかというと伊豆七島に生き延びていた。
若返ったおばちゃんは子供を何人も出産していた。
苫米地は「あの気のいいお兄ちゃんの子供を授かった」と語っていますが、中田コロリたちを最後に助けた瀬戸の子供とのこと。わずか一年程度しか経過していないことを踏まえると、子供の成長が異様なほど早いのはZQNの血を引いているからか。
そして中田コロリはこの状況下でも漫画をひたすら描き続けていた。鈴木英雄が生き延びていることを信じ、「もっと面白くして英雄しゃんに見せたいでしゅ!」と創作意欲は燃えるばかり。ちなみに、中田コロリのモデルは元ラーメンズの片桐仁。
それぞれが新しい家族の形を築いていたが、主人公・鈴木英雄だけは孤独なサバイバル生活をひたすら耐える日々だった。片桐仁は鈴木英雄の生存を頑なに信じているものの、鈴木英雄は片桐仁たちの生存は頭の片隅にもない模様。
ここらへんも「人間としての質の違い」が描かれています。本当に片桐仁のことが好きなんでしょうね。
アイアムアヒーロー最終265話の追加分レビュー
ここからは2021年末発売の完全版コミックに追加された「最終265話のネタバレ感想」をレビューしていきます。
まず265話直前の内容を確認しておくと、鈴木英雄は自給自足の生活は変わらなかった。高層ビルのサンライズ60にまとわりつく巨大ZQNも相変わらず何も変化なし。それでも鉛を溶かして銃弾を作るなど、サバイバル能力が確実に上がっていた。
その銃弾は野生動物を殺すために使われたが、撃ち取った鹿を捌くと体内からは「赤ちゃん」がボロンと出てきた。鈴木英雄は「1人のために2つの命が奪われた現実」に直面して、思わず慟哭してしまう。新しい命を犠牲にしてまで自分に生きる価値があるのか?
ちなみにボロンと飛び出てきた描写は、完全版だと新たに2ページまるまる割かれています。
それでも鈴木英雄は「それでも…それでもだ…かかってこいよ…俺の人生」と再び前を見て立ち上がる。この際に頭頂部のてっぺんが禿げ上がっていることに、年月の経過を感じさせる描写になっています。
○アイアムアヒーローのモデルはアイ・アム・レジェンド?
そして、更に年月が経過した冬、鈴木英雄は草木が生い茂る都心部で狩りをしていた。雪が降り積もった地面を歩くと、そこには鈴木英雄の足跡が付いていた…という終わり方でした。だから『I am a Hero』というタイトルは「孤独な鈴木英雄」という意味だったのかと考察してました。
ただ、この漫画はウイルスの感染が広がってニューヨークで唯一生き残る主人公をテーマにした、『アイ・アム・レジェンド』という小説・映画がモチーフのようです。ウィル・スミス主演の映画は2007年に公開、漫画は2009年に連載が始まっているため時系列的にも合致。
ウィル・スミスはニューヨーク、鈴木英雄は池袋といった大都会で、最後はサバイバル生活を送っていました。だから『アイアムアヒーロー』というタイトル自体には、特に深い意味はないのかも知れない。最初はヒーロー≒英雄≒鈴木英雄という安直な着想から連載が始まっただけか。
○都庁に巨大なZQNが新たに巣を張っていた
だからアイアムアヒーロー最終265話の内容はこの続きが描かれています。
雪が降り積もる東京。スタジオアルタ前などを歩く鈴木英雄は、イノシシの足跡を発見する。その跡をひたすら付いていくと、とある歩道橋を登った時に「巨大なZQNの足跡」を発見してしまう。思わず冷や汗をかく鈴木英雄だったが、ZQNが進んだ方向とは真逆の方向に逃げることにした。
そして、最終的に行き着いた場所が都庁だった。そこにもサンライズビルと同様、巨大なZQNの塊が巣を張ろうとしていた。画像は貼りませんが、見た目は完全な脳みそ。都庁の高さは243メートルなので、これまでで最も巨大なそれだった。
ただ巨大なZQNは生きており、まさに複数の目玉をした化け物が今かと生まれようとしていた。いや足跡が複数ついていたことから、既に何体も生まれていた。鈴木英雄は思わず反射的に発砲し、「こいつらが増えてデカくなったらもう都心にはいられない」と長期戦覚悟で駆逐に挑む。
○最後は「鈴木ひいろ」の父親として新たな人生を歩む
そして鈴木英雄はこれまで数年単位で作り溜めた銃弾を用意し、リュックを椅子代わりにして巨大なZQNを前に陣取った。「さんざん人を喰い殺しといて喰い終わったら今度は産みますってどーいうことだよ?世の中そんな都合よくできてねぇんだよ」と怒りを燃やす。
ZQNの塊が生まれる度に、鈴木英雄は確実に着実にスラッグ弾を撃ち続けた。この銃声は昼夜問わず鳴り響いた。鈴木英雄が腕が簡単に上がらないほど疲労する頃には、ZQNの塊が生まれる間隔がかなり遅くなっていた。
安心と夜の寒さもあって、つい眠りこけてしまう鈴木英雄。ふと起きると、目の前には雪の中を這いずってきたと思しきZQNの塊と思しき膨らみがあった。思わず銃を構える鈴木英雄だったが、そのサイズは明らかに小さかった。
そこで雪の中から拾い上げると、それは「人間の赤ちゃん」だった。
「人間滅ぼしといて、なに人間創ってんだよ」と怒りの涙を流す鈴木英雄だった。「せめて仲間のZQNと同じ場所に置いてやるよ、それで勘弁してくれよ」と語る鈴木英雄でしたが、果たして最後に取った選択とは?赤ちゃんの運命は?
でも結論から言うと、その赤ん坊は「鈴木ひいろ」という名前で英雄が育てていた。名前は「ヒーロー」から来ているものと推察されます。【英雄】の父親と【ヒーロー】の娘という関係性。年齢的にはおそらく2歳前後ですが、ひいろの判断で二人は北海道を目指す。
ZQNが孵化している都心部から既に逃げ出していた二人は、どこからか盗難してきたメルセデスベンツ・Gクラスに乗って走り出す。最後は北海道を目指す車両の後ろ姿が描かれて、『アイアムアヒーロー』という物語が真に完結します。
【最終回】アイアムアヒーロー 全22巻 総合評価・評判まとめ
以上、ゾンビ漫画『アイアムアヒーロー』の最終回・最終話のネタバレ感想でした。
まず新たに発売されたコミック完全版ですが、「娘・鈴木ひいろ」のクダリが新たに追加されているものの、『アイアムアヒーロー』という漫画の評価が大きく変わるかというと微妙かなぁ。
結局、ZQNの感染源や発端は一体何だったのか、世界の状況はどうなっているのかなど、改めて謎がスッキリと明確に解決したわけではない。心を閉ざした落ちこぼれはクルスに取り込まれた人間含めていっぱいいるのに、何故鈴木英雄だけ生き残れたのか。
一応、これまでにも「赤ちゃん」の前フリはあったはあった。最終22巻の母胎から出てきた子鹿や、ZQN化した赤ちゃんや妊婦など、鈴木ひいろという娘の登場に唐突感自体はないと思います。それでもZQNが何故「新しい人間」を産み出したのかはやはり不明。
例えば早狩比呂美の意識がまだ残っていて、それが孤独な鈴木英雄のために子孫を残そうと産んであげたのか。一応、鈴木英雄がウトウト眠っている最中に「元カノ・黒川徹子」との夢を見る。でも、この夢では黒川徹子の顔はハッキリと思い出せないでいる。
だから、鈴木ひいろは「黒川徹子の生まれ変わり」的な立ち位置のキャラクターなのかも。髪型や少しガサツな性格も心なしか似ている気がします。もし元カノの生まれ変わりであれば、【ホクロ】の一つぐらいあっても良かった。
逆にボサ眉は早狩比呂美の要素も感じさせたりするので、若干モヤッとする終わり方は変わらず。それでも主人公の鈴木英雄こと作者・花沢健吾は、最終的に黒川徹子というキャラクターに投影させた元カノが今でも好きなのかも知れない。
○不条理な女と不条理な非モテ
だから、新しい生命と共に新しい未来を歩んでいく姿は、一見すると美しい終わり方ではあります。
ただ、「オンナという生き物」がとことん邪悪な存在として一貫して描写されているのは変わりません。
例えば最終22巻の完全版でも山田城という女子中学生が、顔面に手斧が不運にも当たって落下死してしまう。代わりに若返ったおばちゃんを生存させている点とは正反対。おそらく年増の女性に性的な対象になっていないせいか、やはり若い女性に対して厳しい描写は多い。
最終的に早狩比呂美がラスボス扱いされていた理由も「普通の若い女性」だったからか。
早狩比呂美が「そんなちいさいこと言ってるから最後に名前言ってもらえないんだよ」と鈴木英雄を責めるシーンもありました。これは小田つぐみが死に際に語った言葉が、「井浦のアソコの大きさ」だったことに対する挑発発言。
またこの比呂美もZQN化した直後、アイアムアヒーロー6巻で「真司くんは私が守るね」と無意識的に元カレの名前をつぶやいていました。
だから早狩比呂美も小田つぐみも、こういう状況下だから鈴木英雄を消去法的に選んだだけ。ヒロインたちの本心は「別の男」を常に思い描いていた。だからスコップのZQNも語っていたように、非モテ男はいついかなる状況でも結局は非モテ。
男は「ただ女性を守ってカッコつけたいだけ」なのに、結局、女性の頭の中には【別の男】がいる。一人でも好きな男ができた時点で、その女性は汚らわしい存在にすぎない。もし自分だけを愛してくれる理想的な女性と出会うためには「最初」から育てる以外にはない。
○鈴木ひいろは元カノに対する未練?
だから自分にだけ依存してもらうために、ゾンビ(ZQN)という敵に全人類を滅ぼしてもらった。ZQN≒DQNがモチーフだと思うので、最後までZQN化しなかった鈴木英雄そのものが「いかにピュアな存在」である裏返しでもあるのか。
ZQNの「生命を産み出す」という最後の行為は、まさに女性のそれ。そう考えると、女性という生物そのものをDQN扱いしていた漫画だったのかも知れない。
逆に言うと、「頼れる男は自分しかいない環境」を強制的に作ることでしか、理想の女性は鈴木英雄には振り向かない。まさに【非モテ男の不条理】を【究極的な不条理な状況】で解決しようとした感があります。そう考えると、最終265話の終わり方はなかなか気持ち悪いものもありそう。
ただ女性をとことん独占したいという欲望が垣間見える一方、鈴木ひいろが「元カノの生まれ変わり」と考えると、女性全般に対する敵意や逆恨みというよりも、【特定の女性】に対する未練が描かれてきた漫画だったのかも知れない。
要するに元カノとは生まれ変わってやり直したい思惑がメインに描かれてきたのか。そのため良くも悪くも『アイアムアヒーロー』は鈴木英雄にとって「最初から最後まで都合の良い世界」だったと言えるため、伏線が投げっぱなしだったのも宜なるかな。
でも、もう『ボーイズ・オン・ザ・ラン』のようなDT臭い漫画は描かないのかもしれない。作者・花沢健吾が描くクソ女が大好きなんですが、今ではトマトをすっかり克服してみたり、女性に対する逆恨みに近いコンプレックスも持ってなさそう。
改めて、創作意欲の原点は怒りや憎悪なんだろうなとも思った。
コメント
素晴らしい考察でした。これで思い残すことなく、途中までしか読まないまま放棄できます。
ドリフターズの情報を検索してこちらに辿り着きました
考察自体は大変興味深く面白いものでしたが、それとは無関係に漫画の方への不満はそのままです
なまじ海外での思わせぶりな伏線を張らずにシンプルに比呂美との対峙にしてくれれば、あのラストでもそこまで不満は無かったんですけどね
もうこの作者の新作は完結後にその時の評価を見てからしか読まないと決めました、伏線未回収作品はけっこうあるけど、これは最悪
こちらのサイトの項目は面白そうなものばかりなので、時々お邪魔してゆっくり読ませていただきます
へえ~
ゆとり世代だとこういうことになってまうんやなぁ・・・
草やなニキ
あのさ、ゆとり世代だからって甘えてていいわけちゃうやろ?
やるときはやらなアカンやろ
マジで草うあねんな。ニキ
作者や編集者は読み返さなかったんかな?
こんなひどい最終回でいいのか普通は気付くはず
実写映画版アイアムアヒーローの大泉洋も
最後のオチでハゲ散らかしたんかな?
中田コロリの子じゃなくて桐谷の相方の人の子でしょ
コロリはお兄ちゃんなんて呼ばれる年齢じゃないでしょ
あとひろみの本性を知ったから撃ったんじゃなくて
化け物に取り込まれたひろみを助けるために撃ったんだよ
普通の知能を持ってるなら普通に読んでればわかると思うけど
まぁ、最終回が意味不明なのは同感
最初は陰鬱とした作者の考えの押しつけがきつくて無理!と思ってうんざりしたんだけど、その後の展開が面白かったので読み続けたけど、結局最後は作者の陰鬱とした女性観の押しつけな気がして、ちょっと読んだ事を後悔したりもしましたね
まあ結局はこの作者が言いたかったのはそこだけだったんだろうなって
ひろみとか人間関係とかはともかくせめて感染源や原因だけでも詳細に描いて欲しかったなぁ。
外国の少女は何だったのか。
あの子宮みたいなのはどうなったのか。
オバちゃんの若返りは何なのか。
池袋のビルと一体化したアレの描写や考察もない。
合体できずに残っていた日本や諸外国のゾンビはどうなったのか。
投げっ放しすぎてまだ夢オチで漫画の設定だったって言われた方が納得できたよ。
誰もが夢想の中ではヒーローだってオチのためにこの漫画が作られたのかと思うと、
道中の経験や成長なんかはこの主人公にすればなんの意味もなかった、
そしてそれはこの漫画にも言える妄想してろよって事
しかし現実がそんなくっきり、リア充と非リア充の二元論でわかれてるわけじゃないんだけどね。
ZQNの正体や目的については作中ではっきり描かれてたよね?
最終巻しか読んでないのかな
シチュエーションは既存の映画のパロディで出来てるんで
元ネタを知らないと「意味不明」だと思います
ゾンビ物を知るには最低限、ジョージ・A・ロメロ版の映画を知るべきです
常に「下層階級の怒り」をテーマにしていますが、
この漫画は「陰キャ」「怒りというより逆恨み」にしてる所は笑う所でしょう(^^
アイ・アム・レジェンドの名前は出してもどんなテーマの作品か知らないみたいだし、そこから突っ込むべきでしょう
マンガタイトルと英雄の件は何かしっくりきました。
なんかガンツと似てる気がする。
絵がリアルで、
SFに見えるが男性目線の屈折した恋愛感情や劣情を中心に世界やストーリーが進んでいるところとか。
出産されたZQNを仕留め続け、疲れて眠ってしまって夢を見たようなシーンについて、考察ではてっこのことばかり書かれてますが、そのページで描かれているのは上段はてっこ、中段は小田さん、下段はひろみちゃんだと思います。
だから、元カノてっこへの執着を描いているのではなく、今までの関係した女性たちとの淡い思い出+最後はまたザーサイ、というだけのシーンのように自分は感じました。
ただ、そのほかの考察は分かりやすくて興味深いものでした。ありがとうございます。
作品としては飯能駅からのタクシーでの一悶着後、樹海近くで「どうしよう…」となっている辺りまでしか考えてなかったんじゃないかなとも、感じます。花沢先生もまさかそこから大長編となるとは、という感じ。
そこら辺、1話の時点で最終回までガッチリネームが考えられていたであろう「鋼の錬金術師」とは違うなあと感じます。