『ハピネス』全10巻のネタバレ感想をレビュー。
作者は押見修造。掲載誌は別冊少年マガジン。出版社は講談社。ジャンルは少年コミックのゾンビ漫画。AmazonのKindleや楽天koboなどで無料で試し読み・立ち読みができます。
つい先日、『ハピネス』は2019年3月に最終50話で完結を迎え、5月には最終10巻も発売されました。そこで今回ドル漫では『ハピネス』の最終回のネタバレ感想をレビューしようと思います。
果たしてどういった結末だったのか?
ハピネス最終10巻・最終50話までのあらすじ
まずは『ハピネス』最終回までの展開・あらすじをおさらい。
カルト宗教団体の導師・桜根に捕えられた五所雪子や吸血鬼の大野勇樹。桜根は吸血鬼になろうと目論むものの、勇樹は頑なに「噛む」ことを拒否。桜根は勇樹の肉体を食らうという強硬手段を取る。
同じく吸血鬼の主人公・岡崎誠は、勇樹の助けを求める声を耳にし、数年ぶりに意識を取り戻す。そして脳だけになったノラを手にし、導師・桜根の元に向かう。
一方、勇樹の脳みそを食べた桜根はすっかり吸血鬼になったと信じ込むが、結果的に失敗。
破れかぶれの桜根は五所雪子を殺そうと目論むが、そこに岡崎誠が登場。五所雪子との再会も束の間、桜根の中にいる勇樹が「ずっと謝りたかった。こいつを殺してくれ」と岡崎誠に哀願するように語りかける。
そして、岡崎誠は初めて人を殺める覚悟をし、これから「吸血鬼」として生きていくことを決意した。「人間」と完全に決別した岡崎誠に待ち構えてる運命とは?
【最終話】空を見たら思い出して
ということで『ハピネス』の最終回のネタバレ考察。
岡崎誠はまず桜根の首にガブリと噛む。桜根はようやく吸血鬼になれたと喜びの涙を流すものの、岡崎誠は怒り狂ったように甲状腺を噛みちぎる。結果、桜根はそのまま死亡してしまう。
どうやら吸血鬼になれるかなれないかは割と胸三寸。
桜根に取り込まれた勇樹の魂はそのまま天国に召される。でも、勇樹の表情に悲しみはなく、どこか安堵の表情。
一方、五所雪子は久しぶりの再会に抱擁するものの、岡崎誠はどこかつれない様子。
学生時代の記憶と重なりながら、五所雪子は「一緒に帰ろう」と提案するものの「五所さんには五所さんの帰りを待ってる人がいるんじゃない?」とやんわりと拒否。
そして、「五所さんは教えてくれたよね。頭がごちゃごちゃするときは空を見ろって。だから、空を見たら五所さんのことを思い出すよ。だから、五所さんもぼくのことを思い出して」と永遠の別れ。
○五所雪子は須藤と結婚し、岡崎誠はノラと過ごす
五所雪子は気付くと病院のベッドにいた。隣には会社の仕事仲間・須藤やカルト信者の子供の姿もあり、岡崎誠が五所雪子や須藤たちを病院まで運んでくれたことを告げる。
五所雪子は岡崎誠の姿を探そうとするものの、「ぼくはひとりぼっち」と浮かない子供を見て、「きみは私達を助けてくれた。だから今度は私が助ける番だよ」と励ます。
それに呼応するように須藤も「五所さん、帰ろう一緒に」と語りかけ、五所雪子は「自らの帰る場所」にようやく気付く。その日の空は鮮やかに晴れていた。
それから5年後、五所雪子と須藤の間には子供が産まれ、平穏な日常を取り戻していた。
一方、岡崎誠は通行人を安全に襲っては血液をすする日々を送り、ノラの姿も徐々に人間の姿に戻りつつあった。
【最終話】みんな忘れない
そして、繰り返される日常の繰り返し。空も満月、三日月、入道雲、夕日などいろんな表情を写す。そのたびに岡崎誠や五所雪子はお互いのことを思い出しあった。
数え切れないほどの日常が繰り返された後、人間は「寿命」を迎える。それは五所雪子も同様だった。かつての面影がないほど老いた姿は、再び病院のベッドにあった。
しかし、いつものように空を見上げようと病院の窓から見えたのは「いつまでも変わらない姿」の岡崎誠だった。老婆となった五所雪子から思わず出た言葉が、かつての口癖の「ひさし…ぶり…っす」。
五所雪子の声に生気こそなかったが、束の間の高校時代が蘇った。しかし、手を振り返す岡崎誠の笑顔は浮かない。何故なら、本当に「五所雪子との最後のサヨナラ」を意味していたから。
一方、岡崎誠の隣にはノラの姿があった。これほどの年月が経過したことで、ようやく人間の姿に戻ることができた。ある夜、岡崎はノラの人間時代の記憶を辿る。そこにはノラがかつて好きだった男の姿があり、岡崎と瓜二つだった。
そして、岡崎誠はノラの過去も背負いながら、これからの「無為とも思える長い未来」に歩み出す。五所雪子たちの幻影を背中に感じながらも、岡崎が再び過去を振り返ることはなかった。
果たして岡崎誠とノラに待ち構えてる未来は幸か不幸か…という場面で『ハピネス』は完結します。
【最終回考察】押見修造の「死生観」が描かれていた漫画作品?
最後は『ハピネス』最終回・最終話の意味を勝手に考察して終わりたいと思います。
結論から書くと、『ハピネス』を最初読んだときは単なる経血漫画かと思ってたんですが、意外と感動めいた最終回でした。岡崎誠と病室から遠目で再会したシーンも、不意に結構グッと来るもんがありました。
五所雪子の終始独特の口調も、最後の完結シーンに活かすための演出・伏線だった。「空」を通じて二人は50年も60年も思いを通わせ合っていたことを、あの一言で全て表現されてて面白かった。
そして、『ハピネス』という作品をまとめると「作者・押見修造の死生観」が描写された漫画だったのではないかと考察されます。
○普通に生きて、普通に死ぬことがハピネス
吸血鬼として半永久的に孤独に生きていく若い岡崎誠の姿と、大家族を築いて死んでいく老婆の五所雪子を対比させることで、「ずっと永遠に生き続けることが果たして幸せ(ハピネス)なのか?」を問うていたオチだった気がします。
幸せで平穏な日常とは、ずっと変わらない状態が永遠に続くことではなく、もろく崩れゆく時間の中で必死に生きていくことでいろんな過去が積み上がり、変化の中でこそ「幸せな人生(ハピネス)」が形成されていく。
ハピネスの主人公・岡崎誠の「ただふつうに…生きたかっただけなのに…」という一言がそれを象徴している気がします。
もちろん吸血鬼の勇樹が死亡してる以上、岡崎やノラも現実的に死亡することは可能。そこらへん論理矛盾は感じましたが、「愛し合う運命を背負ってる」という点が二人を生き長らえさせる部分か。
まさに「ひたすら無限に流れていく時間をあてどなく過ごす」という不幸せの中、岡崎誠たちの唯一の幸せこそが「かすかな愛」だけ。一方、若い美人(ノラ)と半永久的にイチャコラできる願望も最後にシレッと描いてるのも押見修造らしい作品ではなかったか。
コメント
ハピネスは最高の漫画でした
そして最高のレビューでした