「20世紀少年」や「MONSTER」で知られる作者・浦沢直樹と長らくタッグを組んでいるのが【長崎尚志】。ストーリーの原案や脚本を主に担当している元漫画編集者。
この長崎尚志の原案を元に2021年に制作された映画が『キャラクター』。10年以上前から構想を練っていたという触れ込みの元、主演は菅田将暉を務め、Fukase、高畑充希、小栗旬、中村獅童など出演者もそれなりに豪華でした。
そこで今回ドル漫では『キャラクター』が面白いのか、つまらないのか、おすすめ映画なのかレビューします。
内容あらすじ・ストーリーまとめ
まずは『キャラクター』の内容あらすじを簡単に解説します。
主人公は「山城圭吾(菅田将暉)」。本庄という人気漫画家の下で働く有能なアシスタントだったが、もちろん山城の夢はプロデビューだった。しかし山城は日々オリジナルの漫画を描くが、いつも鳴かず飛ばずに終わっていた。
何故なら、山城は【悪役キャラクター(登場人物)】を描くことができなかったから。山城の性格はお人好しそのものだった。特に山城が描きたかったサイコサスペンスというジャンルに不向きだった。だから何年もアシスタントとしてくすぶっているのも当然だった。
最後に人生を賭けた漫画も編集者からダメ出しを食らって、漫画家の道をついには諦める。それでも恩師の本庄に報いるため、最後までアシスタント業務に邁進する山城。そんなある夜、本庄から「一軒家のデッサン」を頼まれるのであった。
○主人公・山城は「4人家族」の惨殺死体を発見するが…
山城は自転車で閑静な住宅街を散策しつつ、とある一軒家に目をつける。
いそいそとデッサンしていると、その一軒家のドアがガチャッと開いた。思わず事情を説明して平謝りする山城であったが、その住人はそれ以上出てくる訳でもなく、何も言葉を発する訳でもなく、そのまま再び奥に引っ込んだ。
山城が少し訝しがっていると、その一軒家の隣人が顔を出して苦情を言ってきた。何故なら、山城がデッサンしていた一軒家からは大音量の音楽が流れていたから。明らかな違和感を覚えた山城は謝罪する名目で、その一軒家のドアを開けて大胆にも侵入した。
そして案の定というべきか、山城は無惨にも惨殺された4人家族を発見するのであった。
しかも、思わずたじろぐ山城の目の前には、まさに逃亡を図ろうとしていた「犯人」の姿があった。ただ山城は犯人の横顔をバッチリ目撃していたが、その後、駆けつけた刑事の「真壁(中村獅童)」や「清田(小栗旬)」にそれについて証言することはなかった。
○サスペンス漫画「34(さんじゅうし)」が大ヒットも…
何故なら、山城の頭の中では【キャラクターのインスピレーション】が稲妻のように走ったから。
山城は目の当たりにした現実を元に、ダガーと呼ばれる殺人鬼を主人公に据えた『34(さんじゅうし)』と呼ばれるサスペンス漫画を完成させる。それまで欠けていたキャラクター作りの弱点を奇しくも克服した山城は、『34』で鮮烈デビューを果たすのであった。
それまで献身的に支えてくれていた「川瀬夏美(高畑充希)」も専業主婦に専念し、山城は夏美と共に超高層マンションに住み始めるほど大成功を収める。ただ山城の成功を喜んでいたのは、自分が愛する家族や恋人だけではなかった。
何故なら、「両角(Fukase)」と呼ばれる快楽殺人鬼も同じ気持ちだった。特殊な過去を持つ両角は自身が漫画のモデルになっていることが素直に嬉しかった。そして、しばらく身を潜めていた両角は『34』で描かれた通りの殺人を次々と起こしていく。
両角は善意で山城の漫画を実質的にサポートしようと動くが、その矛先は山城にも次第に向かうこととなる。果たして、二人の運命は?両角の狂気を止めることはできるのか?
Fukaseのピンクヘアーどうなん?
まずは『キャラクター』のツッコミどころを書いていこうかなと思います。
映画のパッケージを見ても分かるように、快楽殺人鬼の「両角(Fukase)」の髪型がピンクヘアーと奇抜すぎる。山城(菅田将暉)が描く漫画の中でもそれに近い髪色(モノクロでは銀色風)で表現されてるんですが、それはあくまで二次元の世界では成立する演出。
でも三次元の映画にそのまま投影させると、さすがにツッコミどころ満載に映る。両角は落ち着きがない多動っぽいキャラとして描かれてる。でも髪の毛をピンクに染め上げるまで、美容院でじっくり大人しく待ってたんかいという。じゃあ美意識も高いキャラかというと、服装は至って地味。
Fukaseのサイコキラー感を引き出そうとしたんだと思いますが、演出としてあまりに安易と言わざるを得ない。
Fukaseを含めた出演者の演技力は問題ないと思いますが、さすがに目立って仕方ないやろ。警察サイドは一向に犯人(両角)の正体や足取りを最後まで掴めないというストーリーなんですが、「うーん。そんな訳ないやろ」って感じ。
○安易な演出はリアルさを遠ざける
例えば、両角は「殺人という行為はすごく労力がいるんだよ」みたいな苦労話を山城に語っていたりします。現場に長時間留まっている以上、両角のピンクの毛髪が落ちてないはずがない。周囲の防犯カメラから、ピンクの毛髪を発見した奴を探し出せばすぐ検挙できるはず。
あと両角は犯行直後に血まみれの状態で、そのまま家に帰ってくる。いやいや、その帰宅している最中に誰かに発見されへんかったん?両角(Fukase)は「天才的な殺人犯」という設定ではあるものの、そういう知性的な部分は感じることはできず、展開にはやや緊張感に欠ける。
いくら「キャラクター(登場人物)」を意識した作品としても、ピンクヘアーである必要性が全く説明されていない。例えば、『ジョーカー』のように殺人を犯すと決めた時だけ、自らを発奮させるために一時的に髪色を変えたりするなら理解はできますが、ただただ無意味な演出。
売れっ子の漫画編集者(中尾明慶)も漫画におけるリアルさを語っているんですが、かえって「リアルさ」を遠ざけてしまっている感は否めません。実際、こんなピンクヘアーの殺人鬼をリアルの報道で見たことがありますか?という話。
結論ありきの演出
最後の結末も少しだけネタバレしておくと、山城(菅田将暉)と両角(Fukase)が相打ちみたいな終わり方になる。両角が山城に覆い被さってどちらも死ぬという結末は、山城が描いた漫画の結末と同じ。実際には、山城が両角に覆い被さった真逆の構図になる。
何故なら、山城が妻の夏美(高畑充希)を守るために両角を殺そうと馬乗りになる。その際に、刑事の真壁(中村獅童)が山城に向けて発砲する。正確には死亡はしないんですが、そのまま倒れ込んで両角の体に覆い被さった状態になる。
ただわざわざ発砲する必要があったのか?という話。下手すると被害者の山城が死亡してしまう。そのままタックルすればよかったのではないか?漫画の結末とリンクさせるために発砲したとしか思えず、やはり演出としては安易だったか。
キャラクターの総合評価は?
他にも「清田(小栗旬)」という若い刑事が、誰に対してもタメ口で話すのも地味に気になる。暴走族上がりという設定ではあるものの、漫画のセリフであれば気にならなくても、実際に年下キャラのタメ口を耳で聞くと違和感が残る。
不愉快とまでは言いませんが、ストーリーの流れとは全く関係ない部分にお客の注意が向くのは得策ではない気がします。また妻の夏美(高畑充希)の双子を妊娠してたオチも、ここまで両角が4人家族を憎んでいた設定が強調されていると割りと読めたオチかな。
ただ『キャラクター』という映画がつまらないかというと、そういうわけでもないと思います。興行収入が16億円を突破しているそうなので、世間的にもそれなりにウケている様子。長崎尚志が10年構想を練ったという大げさな触れ込みを無視して観れば、それなりに面白いかも。
俳優陣もそれなりに豪華ですし、Fukaseという面白い起用も良い意味でマッチしている気がします。グロいシーンもそれなりにありますが、常識的な範囲内で良くも悪くも収まっているか。あとプロデューサーの川村元気や村瀬健が意外と有名らしい。
前者は『電車男』『告白』『悪人』の企画を立ち上げてたりする人なので、それなりに辛辣にレビューしましたが「ハズレ映画」というほどの駄作でもないと思います。
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